10分で楽しめる文化系WEBマガジン MIN CAFE

ひとりカフェ中に、10分で楽しめる本や映画、エッセイ、カフェ系ブログ。映画は洋画中心、カフェは関西中心、ときに考えさせてくれるエッセイをエッセンスに。文化系の読者様大歓迎です。

壁なんてないのでは|世界にひとつのプレイブック|評価|感想

問題は問題を見過ぎることにあると気づかされる映画

暗くなくてコミカルな病み模様

主人公男女はそれぞれパートナーと離れなければならず、それぞれが過去を引きずっている。心を病んで病院やセラピーにかかっている。病んでる状態をじめじめ感がなく、乾いていてコミカルだ。観ていて暗い気持ちにはならない。

何かしら病んでいる

主人公以外にも病院がよいまでとはいかなくても、ストレスや心に問題を抱えている人たちが登場する。みんな何かしら病んでいる。心を病んでいる人との差なんて微々たるもので、何が正常で何が以上なのか、曖昧にしてしまう描き方がこの映画の良さだ。

変えようとして問題をじっと見る

ブラッドリー・クーパー演じるパット主人公は過去の失敗に縛られている。どうにか治して、直して、やり直すために無理に自分を変えようとするがステレスになる。自己暗示をかけて、がんばり続ける。まさに無理矢理自己啓発を続けている。世の中、ポジティブが正しい生き方みたいな風潮があるけれど、それってしんどくない? と主人公を通して思った。

出会った女性は

パットはジェニファー・ローレンス演じるティファニーに出会う。ティファニーがまた病んでいる。傷心から自暴自棄に陥り、さんざんなことをやってきたが、そんな自分を全て受け入れている。飾らなすぎて、変な女に見られているのだけれど、パットに比べるとシンプルで面倒くさくない。

病んでいる二人だからこそ

飾らずに本心をさらけだしていく。ぶつかって傷つけ合ってはいるが、ねっこでお互いを理解している関係が築かれていく。

壁は乗り越えなくていいのでないか?

壁を乗り越えたとき、人は成長する。みたいな言葉、歌詞を何度となく聞いてきたけれど、本当にそうなのかなと、この映画を観て改め直した。壁ばっか見ていたら、乗り越える気力なくならないか? 主人公パットは最初、壁ばかり見ている。壁を乗り越えるために自分を鍛え、変えていこうと躍起になっているが、ことごとくうまくいかない。そんなとき、ティファニーと出会い全くやったことのないダンスに挑戦する。次第に目の前の壁から目が離れていき、別のものが見えだしていく。ティファニーという妻以外の女性・家族・自身に目が向く、そうやっていく内に、本当の問題に気づいて、壁は自分が作った本来存在しなかったものになっていく。そういうふうに、私には思えた。だから、壁は乗り越えなくてもいいのではないか。

数学者を主人公とした数少ない映画の名作|イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密|映画|感想|評価

数学者を主人公とした数少ない映画の名作がもうひとつ

大人気ベネディクト・カンバーバッチ主演

スター・トレック イントゥ・ダークネス』で認知した。あのキャラは最高だった。その後、大好きな映画『つぐない』にも実は出演していた。脇役だったのだけれど、『つぐない』で主演女優だったキーラ・ナイトレイもこ『イミテーション・ゲーム』で出演している。

数学映画はアカデミー候補

数学者を主人公とした映画と言えば、『ビューティフル・マインド』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』が思い浮かぶ。どちらもアカデミー賞に絡んでいる。『ビューティフル・マインド』はアカデミー作品賞『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』はアカデミー脚本賞を受賞している。

変人の多い天才数学者

数学や学術的なものを映像で表現するのはとても難しい。だから、自ずと人間ドラマを通して描かれる。全ての映画は人間ドラマなのだろうけれども。『イミテーション・ゲーム』を含め三つの映画で特筆すべきは主人公のキャラクターが、少しずれてる点。天才は秀でている分、何かが欠けているのだろうか。

世に名を残し、世に影響を与える者はぶっとんでいる

この映画の主人公、アラン・チューリングも変人ぶりが描かれているけれど、少し大人しい変人ぶりだと思った。学者ではないけれど、ハワード・ヒューズを描いた『アビエイター』のレオナルド・ディカプリオなみのぶっとんだ演技までいっていたら、本筋以外で楽しめたかもしれない。

伝記物というよりも、ドラマチックがポイント

アラン・チューリングの掘り下げと、戦争背景のストーリー部分のバランスで、ストーリー重視になっていたので、主人公の心情描写に時間をとらなかったのかな。伝記物映画って、3時間いってしまうほどに長いものが多くて、主人公の掘り下げが深い。この映画は、上映時間もコンパクトで疲れず観られる。バランスよくて面白い。

でも、つまんなくなっても長くて掘り下げたバージョンも観てみたい気がする。

ダスティ・ホフマン監督|カルテット!人生のオペラハウス|感想|評価

あのダスティ・ホフマンの初監督作品

元音楽家たちが集う老人ホームを舞台にした映画。実際にモデルとするホームがミラノに 実在する。ヴェルディが私財で作り、寄付で運営されている老人ホームが存在する。設定はとても面白いのだけれど……

王道のストーリー

設定が奇抜な分、ストーリーは王道。展開が全て読めてしまう。人物模様はしっかり描かれていて、加齢故のジョークも織り交ぜ全体的にコメディ感もある。しかし、ストーリーに波がない。ゆったり観れる映画だった。

ホグワーツの先生

ホームが舞台なのだから登場人物の年齢層は高い。ホグワーツの先生で同じみのキャストが複数出ていました。大ベテランの演技力がひっぱっていく映画だった。

クライマックスが残念

音楽もののストーリー展開は、大方同じ流れになる。からこそ、クライマックスの音楽シーンを楽しみにする。この映画では肝心のシーンが、残念だった。オペラなので、役者がそのまま歌えるわけではないので、こういう逃げ方をせざるを得ないのだけれど。音楽映画よりも、ヒューマン映画としての要素を重視して、こういう形になったのだろう。

☆☆★★★

役割が家族を作る|キッズ・オールライト|感想|評価

家族設定が風変わりな物語。行き詰まっていく関係に風穴が空いたが……

設定が面白い。けれど、結局はノーマルな家族が起こすであろう問題と同じ問題を持っている。お互い思い合いながらも、本心をさらけ出さずに歳月が過ぎ、不満と不安が澱のように積もっている。子供たちと血のつながりはあるけれど家族とは言えない男と接点ができ、危うくも保たれていたバランスが崩れていく。次第に本心を顕わにしていく。殺伐として家族関係は崩れていこうとするが……。

父性のない家族

登場する家族は、レズビアンカップルが精子提供を受け、お互いに子供をもうけています。女の子と男の子ひとりずつ。母親が二人いて父親がいない家族という複雑な設定です。母親二人、どちらが父親役をやっているふうではなく、かといって母親なのかともいえず、役割が曖昧に見える。

男は平和を乱すのか

子供は父性を求めても、女たちは男としか見ない。異物が家族のなかに関わりをもった途端、家族はそれぞれ抑えていたものを噴き出していき、本心を知っていく。改めて人間関係て危ういのだと考えさせられた。それぞれの役割を自然に演じてバランスをとった関係も、新たな人物が入ってきて、その人物の役割に刺激を受け、今まで役割を演じられなくなってしまう。みなが新たな役割を演じ新たなバランスがとれればいいのだけれど、そうならないときは崩れてしまう。人間関係も絶妙な配役で、良くも悪くもなる。映画の善し悪しと似ているのかもしれない。

☆☆★★★

二人のロバートが演技でぶつかる|ジャッジ 裁かれる判事|感想|評価

父と子の法廷劇。親子関係の確執の根っこも同時に紐解いていく。

とてもよい映画だった。この一言に尽きます。一番おすすめするしたいのは、大人の男性です。法廷ものだけれど描かれているのは父子関係です。頑固一徹の父と俺様な息子。全然違う性格の親子。過去のある事件がきっかけで、ずっとお互いをわかりあえずすれ違い続けていた二人が、父の事件をきっかけに交差する物語です。

二人のロバート

ロバート・ダウニー・Jr

主人公の弁護士を演じています。アイアンマンのイメージが強く今回も俺様キャラでした。今回は彼の古い作品で『愛が微笑む時』の主人公を思い起こしました。利己的な仕事マンを演じていて、それに近かったです。いつも彼の演技を見て思うのですが、ちょっと笑いを誘うシーンでの間の使い方がすごく上手い。間を長くとったり、その逆、間髪入れず返したりと。

ロバート・デュヴァル

父親の裁判官を演じています。すばらかったの一言です。強さと哀愁と男らしさ、弱さ。老いの苦しさ以上に、老いての生き様が胸に迫りました。精一杯、子供を育て、妻を愛し、めいっぱい働いてきた男は老いてカッコイイものなんだなぁと憧れます。

グラン・トリノの脚本家

クリント・イーストウッドの映画の中でも好きな『グラン・トリノ』の脚本家ニック・シェンクが執筆。この人は頑固じいさんを書かせたら上手い脚本家なのかもしれません。グラン・トリノが好きな方は、きっと楽しめる映画です。

☆☆☆☆☆

印象的な親子の会話|ユウキくんとお母さん|教育|子育て

先日、電車で目にした印象的な親子のお話

6歳くらいの男の子とそのお母さんが会話をしているのが耳に入った。仮に男の子の名前をユウキ君として再現します。

お母さん「ユウキはまだまだ伸びしろがあるから、もっともっと強くなるよ。お母さんはもうこれ以上は強くならない」 (囲碁か将棋か、何か知能を使ったゲームを親子でやってきたらしい)

ユウキ「ほんまにー?」

お母さん「歌の方はちょっとやけど、こっちは才能あるよ。難しいって思っても諦めずに一生懸命考えるんよ。そしたら、できるようになるから」

ユウキ「うん」

という具合に会話の一部が耳に入ってきた。その後、親子は空いた席に座り楽しそうに会話をしていた。席が離れたため詳細はわからないけれど、お母さんの会話をしっかりユウキ君は聞き、お母さんもユウキ君の言うことをしっかりと聞き、キャッチボールができていた。

私は「このお母さんはすごい」と思った。見た目は小柄で若くかわいらしいお母さん。言葉遣いは関西弁でしゃきしゃきと話す。とても頭の回転がいい方だと感じた。そして、一番強く感じたのは、何よりも子供と話しているのに、大人と話しているように話すということ。子供だからといって、極度に大人目線で上から話さない。普通の大人だと、意識してか無意識にか、子供に対して自分が下に下りて話してしまってる。しかし、このお母さんからそんな印象が全くなかった。友達に話すように話していた。

そして、ユウキくんの受け答えがとてもしっかりしていたのに感心した。えっとーとか、感覚的な言葉遣いはなく、文法がしっかりしている。難しいことは話していないのだけれど、しっかりとした会話を親子でしている。これって、大人になった親子でも、なかなかできていないんじゃないのか。どちらかが一方的に言いたいことを言って、片側は聞きに徹していたり、言葉を極端に省略していたりするでしょう。

ユウキ君が話し、お母さんが相づちを打ち、笑う。今度はお母さんが話し、ユウキ君が頷いて聞き、笑う。その姿に大げさだけれど、私は感動した。なんだか、この親子はすごい。ユウキ君はとても利発だ。まるで、小説や映画に出てくる創造上の利発な男の子が、現実にいることに驚いた。運動ができるとか勉強ができるとか、知らない。けれど、もっと大事なことがユウキ君に備わっているように見えた。

それ以上にお母さんはすごい。とても子供のことを見ているんだと思う。歌がそんなにということを囲碁か将棋だかはこの子はできそうだと把握している。そして、しっかりと褒めて、努力するようにと諭している。書いておきながら、どうしてここまでこの親子に惹かれたのかわからないところがある。うまく言い表せないけれど、とてもいいものを見た。

宇宙冒険を疑似体験できる映画|インターステラー|評価|感想

クリストファー・ノーラン監督、インターステラーの感想

宇宙探検を体験できるハードSF映画。宇宙に広がる見たこともないを主人公と旅する。圧倒的な異世界に放り込まれる人間は、科学の力をまとったところ、全くの無力であることを思い知らされる。スタートレックスターウォーズで描かれる宇宙とは違い、身肌に感じるリアル感です。

ストーリーに別次元の要素を取り入れる。

インセプションでは物語に階層(レイヤー)を取り入れ、各階層が影響を与えるという斬新な設定を生み出しました。見たことのない設定に、最新の映像技術で夢の中を見事に作り上げました。商業デビュー作のメメントから、特殊な設定が斬新な構成を生み、観客は翻弄されっぱなしです。いつも驚かせてくれる。インターステラーにおいては、時間の扱い方、実証されていない次元、この二つが面白いストーリー展開を生んでいます。

リアリティの追求

脚本を担当したジョナサン・ノーランはこの映画のため、カリフォルニア工科大学相対性理論を学んだそうです。そのためかリアルな台詞の応酬があります。難しすぎて理解できないのですが、難解な言葉がリアリティを生み、興味をかき立てます。言葉は難解だけれど、それがストーリーを難解にしていくわけではなく。聞き流しても筋は追えます。

普遍的テーマ

愛が何度か語られます。恋人・家族への愛、人類への愛など。非日常な宇宙空間で登場人物は試されるのです。人間の善悪、価値基準、さまざまな人間らしさが内在していて、観客へいくつもの問いかけがある映画でした。

宇宙冒険を疑似体験

宇宙船の打ち上げから、未開の宇宙への探索と、主人公たちとその行程を一緒に体験できます。実際に宇宙に行ったならば、このような光景を見るんだろうか。このような感覚を体感するのだろうか。映画の枠を超えて、宇宙探検を楽しめる映画でした。日常を忘れ、完全に映画の世界に入り込ましてくれる希有な映画だと思います。

☆☆☆☆★